クリエーションを前提としたクリエーションを実践しないチーム
集団と集団の言葉と言葉の意味の侵入を基に新しい作品を作り、上演するための集団。この集団は、2022年7月、スペースノットブランクのオープンコールによって集まり、一年間「クリエーションを前提としたクリエーションを実践しないチーム」として対話や情報共有を行ないながら集団の言葉を培う。大きな集団の中に生まれる小さな集団同士が、言葉の意味の侵入をし合いながら膨れ上がり、飽和すると萎み、最後に残るべきものことの何かが残るか何も残らない、という群像を描こうとするための準備。
ここではチームのメンバーとメンバーによる自己紹介を掲載する。
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青田亜香里 あおた・あかり Web |
はじめまして。青田亜香里です。静岡で生まれて神奈川で育ちました。パフォーミングアーツを軸に色々と(ばらばらと)やっています。 チーム、チーム? どうなっていくんでしょう。楽しみです。よろしくお願いします。 |
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青本柚紀 あおもと・ゆずき |
1996年生まれ。東京大学人文社会系研究科博士課程在学中。俳句を中心とした詩歌の実作のほか、クィア当事者としてジュディス・バトラーを中心にフェミニスト哲学の研究をしています。日常に使われる言葉と社会通念が浸透しあうなかで、言語に残された差別的な構造に対して言葉を奇妙に使うことによって抵抗することに関心があり、それが二つを結んでいます。 |
撮影:前谷開![]() |
大石英史 おおいし・えいじ Twitter |
大阪府出身。俳優。 2015年から2020年までdracomに登録メンバーとして参加。 過去には、孤独の練習、市原佐都子/Q、お寿司、akakilike、努力クラブ、ブルーエゴナク、THE ROB CARLTON、劇の虫、庭劇団ペニノ、維新派、新聞家、トリコ・A、ソ・ヒョンソク、sons wo:、村川拓也、藤田貴大などの作品に出演。また、国内外の演劇祭に多数参加。 今回のチームへの参加動機は、クリエーションの前段階で人が集うときに何が生まれるのか興味を持ったため。 |
撮影:日景明夫![]() |
加賀田玲 かがた・れい Twitter/Instagram |
今年の4月から一人暮らしをはじめた。ちょうど日記のワークショップ(期間中、日記を毎日Googleドキュメントで参加者のなかだけで共有し、オフラインで隔週で集まってそれぞれの日記をもとに話しあうというもの)に参加していたタイミングだったこともあって、実家を出るのにあたって17年前の日記を引っ張り出して新しい部屋に持ってきた。色あざやかな植物が表紙をかざる何冊かのジャポニカ学習帳の「国語」(12行 縦リーダー入り)ノートに書かれた日記を読み返してみる。
4/11 「カンガルー・ポー」なんてよくしっていたね!ままは初めてききました。せっかくだからよくみてくればよかったね。“カンガルー・ポー”の名前の意味、玲君知ってるんだからかいてね。 4/19 3年生になるといろいろなことがおしえてもらえますね。 7/23(調ふの花火) とてもきれいだったね。また来年もみにいこうね。 8/27〔三じゅう士のかんそう文〕 玲君今日は字が汚いね。 9/18(まいごさがし) 今日は玲が突然、迷子をさがしにいくといって、とび出していったので、びっくりしました。困っている人をたすけてあげてよかったです。 9/24(たまごっち) ママにはたまごっちのよさがわかりません。 9/29(たまどうぶつ公園「こんちゅうかん」) 10/19(MD) ていねいに使ってね。こわさないように。 11/5(ハラビロカマキリを見つけたよ) ママもカマキリがえものを食べる様子をはじめてみました。すごかったねー! 11/10(スイエイ(こだまようちえん))
とても楽にきもちよさそうにおよいでいました。もう30mできるよ。 小学校3年生のある時期だけ書いていた母親(ときには父親)からの赤字でのコメントつきのこの日記は、ある日のコメントを読むとたまごっちを買ってもらう代わりとして毎日つづけることが母親から義務づけられていたもののようだった。母親なりの何らかの意図を持った教育法という側面もあったのだと思う。ここには引いていないが「字が汚いです、書きたくない気持ちで書いた日記はママは読みたくありません」、「一文が長すぎます」、「これ(接続詞のこと)は不要」というような添削の入ったコメントもしばしば見かける。 昨日の夕方、友人3人と近所の公園に行った。他の3人がたくさんの花をつけたサルスベリの木の下にいる様子を、少し離れた自分がスマートフォンで撮影しようとしていると、キックボードに乗った女の子が通りかかって、「何してるんですか?」と話しかけられて仲良くなった。小学校5年生だという女の子は自ら笑って不登校ですと自己紹介する明るい子で、とにかく外で遊びたいからクラブも習い事もやっていないし中学に入っても部活に入るつもりはないと話していた。それに、家では時間によってもらえるおやつの量が減っていき、15時には全部もらえるけど16時には3分の1になり、17時にはもっと少なくなるので、何としてもはやい時間に家に帰っておやつをもらって外に繰り出す必要があるらしかった。その子は公園のなかを縦横無尽に走り回って、あれとあれとあれが梅の木でこっちは桜、この木はトゲがあるから気をつけた方がいい、あっちに井戸がある、サルスベリの名前の由来は、など懇切丁寧に教えてくれて、走り回るその子にただついていくしかできない自分たちは、その子が公園にも植物にもとにかく詳しいことに驚いた。その子が向こうの方に高く生える木を紹介するときの背中、公園のスロープをキックボードで思い切り駆け上がるはやさ、自分のことを「子ども」だと呼ぶこと、教えてくれた井戸のポンプの口を手でふさいで機械の隙間から水を噴出させる遊び、写真や動画ではなくその空間がまるごと残ってほしいし、この文章があの子にとっての赤字のコメント代わりにでもなってくれたらいいと思う。 |
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黒澤多生 くろさわ・たお Twitter |
黒澤多生といいます。 普段は俳優や舞台監督をやったり、劇場で働いていたりします。青年団という劇団に所属しています。 高校時代、なりたいものもやりたいことも特になかったのですが、入試が面接だけだからという理由で入った高校の演劇部で面白さにのめり込み、あれよあれよという間に15年が過ぎ、現在に至ります。今年で30歳になります。 なりたいものは今もなく、ただ自分の面白いと思うこと、できると思うことの延長線上を目指しています。 趣味は映画を観ること。シネコンもミニシアターも満遍なく見ますが、シネコンの方が多いです。ガチャガチャしたアクションか、ホラー映画をよく観ます。演劇も、並の人よりよく観る方だと思います。 言葉を書くことは、好きですが、あまり得意ではないです。物語を書いたことはほとんどありません。自分が書くものよりも面白いものがあることを知っているので、すぐに筆を折ってしまいます。 この企画に参加して、もう少し自分の言葉を好きになりたいです。今まで表れなかった言葉を尽くしていきたいと思っています。 |
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高橋慧丞 たかはし・けいすけ Twitter |
実家の表札の傍には、その家に住む家族の名前が、手書きで、おそらく母親の字でしたが、控えめに書かれた紙が外に見えるように差し込まれていました。私の名前は、5番目、もっとも最後にありました。 その家は1993年に竣工し、私は1994年に生まれました。1993年にその紙が書かれたのか1994年に書かれたのか、あるいはもう少し経ってから母親のふとした思いつきによって書かれたのか、もっと前、私の兄姉たちが生まれた時に書かれたものに書き継いだものなのかは判然としませんが、私が気づいたのはずっと小さい時で、質問をすれば家族の名前だというそれを見つめ、ひらがなしか読めない自分の未熟さを情けなく思いました。私の名前は「けいすけ」といいました。5番目に書かれていた私の名前は「慧丞」でした。普段よばれる私の名前の響きからその文字は遠く、けいすけ、と言いながらなぞってもそんな風に読めるなんて全然思えなかった。その時の、自分を示す記号に対する違和感を、結局私はまだ拭いきれていないのかもしれません。紙は、時代の流れとともに防犯面を懸念され、いつしか破棄されました。 出し抜けにそんなことを書いたのは、自己紹介といわれればまず名乗るのが常套だろうと思い、名前にまつわるそんな話が思い出されたからでした。私の名前は高橋慧丞です。唐突に示されても読めないのは私も同じです。 私は都内在住の会社員です。性別は男性。2021年から2022年にかけて、映画美学校言語表現コース ことばの学校、に学び、第1期生になりました。そこで試みたのは、書き言葉を用いた創作へむけて実際に自らの手を動かしてみることでした。あまりにも個人的なことなので詳述せずに少し強引に言い切ってみますが、その期間を経て、私の手つき、それが私の中で問題視され続けてきました。その模索はもちろん今も続いています。 今回のチームに参加した理由は、たぶん、ここ数年で私が勝手に行ってきた活動の延長線上に、この場があるような気がしたからです。と、そんな曖昧な感覚を理由としていいものなのか。きっと好ましくないでしょう。こうして参加させていただくことになった以上、私がこのチームに参加することを通して何をどうしたいと思ったのかを、言葉でまとめてみて、私の紹介を終えます。 |
撮影:大内朗宏![]() |
土田高太朗 つちだ・こうたろう Twitter |
『柱を立てる』(2021)と『線』(2022)の出演・美術、『袖のところにも刷ってもらった』(2022)の美術などを通して劇を作ってきました。言葉や図、状況を参照する行為が含む非同期を扱うことを考えています。 |
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中尾幸志郎 なかお・こうしろう Web/Twitter/Instagram |
こんにちは。中尾幸志郎といいます。自己紹介ということなので、自分の身の上とか今現在どういう生活をしてるかとかの話をします。僕は高校までを長崎県の時津町というところで過ごして、大学にあがるタイミングで東京に引っ越してきました。今は西荻窪という、おいしいごはん屋さんがたくさんある町に住んでいます。24歳です。昨年くらいから、会社員をやっています。仕事中はパソコンの画面を見つめてばかりなので、1.5あった視力が0.4になってしまいました。また、散策者という団体を2018年からやっていて、そこで演劇を作っています。演劇といっても知り合いの小説を上演したり、みんなで戯曲を読むぞと言って真冬の会津で合宿したり、最近は動物園で気に入った動物を見つけてそいつの動きを真似してみたり、飽き性なのでいろいろ変なことをやってみてます。見るのも好きです。あとパスタも好きです。薄めのトマトソースに明太子をぶっかけて食うパスタが一番好きです。ここで何をするのか、他に誰がいるのかも分かってませんが、今こうやって誰に向かってかもわからない自己紹介文を書いてるのも楽しいので、これからのことがいっそう楽しみです。よろしくお願いします。 |
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永山由里恵 ながやま・ゆりえ Twitter |
永山由里恵と申します。平田オリザ氏の主宰する劇団「青年団」に所属し、現在小劇場を中心に役者として活動しております。また平日は会社員として働いており二足のわらじで活動をしております。 少し、自己紹介がてら私の演技との関わりについてご紹介できればと思います。 私は、立教大学現代心理学部映像身体学科で映画表現や映画批評を学び、新卒で一般企業に就職後に夜間に映画美学校のアクターズコースに通い、卒業後に青年団に入団しました。 20代の頃は自分が役者と名乗ることに自信がなかったのですが、様々な演出家の方や役者の仲間と作品を作る中で、刺激的な作品や演出家との出会いが、私の演技の方向性に影響を与えてくれ、役者としての自覚が生まれ、今に至ります。これから役者として、自分の身体・台詞の表現をもっと磨いていきたいですし、自分の表現の幅をもっと広げていきたいという欲望を持っており、これからも演技表現を続けていきたいと考えております。 スペースノットブランクの小野彩加さんと中澤陽さんとは数年前、こまばアゴラ演劇コンクールで演出家、俳優という立場で出会い、課題戯曲である岸田國士『温室の前』で一緒に作品を作らせていただきました。本当にはじめましての出会いではありましたが、お二人から提示される台詞の発話と身体表現の演出が、私にとってはとても新鮮で楽しかったことを記憶しています。私はダンサーではないので、体の扱いに関しては、無知に近く、小野さんと中澤さんの動きへの向き合い方はとても勉強になりました。 今回の募集に応募しようと思ったのは(一年後の)クリエーションを前提とした(一年間は)クリエーションを実践しない(一年以上の協働を見据えた)チームの組織のためのオープンコールという文言に惹かれました。通常、舞台の制作というのは、3ヶ月ほどの期間、普段はバラバラで活動している俳優・演出家が同じ作品に向けて、認識や考えをすり合わせ作り上げていくものです。その一期一会なクリエーションも、もちろん刺激的で学びが多いのですが、どうしても、クリエーションが終わったら、それぞれ他の現場に向かって、また別れていき、劇団でない限り継続的な関係やクリエーションは築けないものです。そこでもう少し長期間、ゆるやかなネットワークを維持する協同体のような現場があってもよいのでもないか。ちょうど自分が言語化できずにいたことが、今回の応募要項を拝見して、すっと自分の中に入ってきたため、ぜひ参加させていただきたいと思った次第です。 まだ、どのようなクリエーションになるのかあまり想像がついていませんが、応募の際の課題と、また、お二方との面談の際に言葉というキーワードが多く出ましたので、最後に言葉について少し私の考えていることを書きたいと思います。自分とは真逆の人や反対の立場の人や演劇に興味のない人に対して、どういう言葉を持って私はアプローチできるかということを最近考えています。台本の台詞を発話をし、自分の体から発する言葉で、観客や共演者とコミュニケーションを図っていく役者だからこそ、言葉の可能性を諦めてはいけないし、信じなくてはいけないと思っています。言葉を使う演劇という芸術が、現在の社会の分断や、孤独に少しでも寄り添うような存在であってほしいですし、言葉という私を支える世界とどう向き合っていくか、今回のクリエーションを通じ、役者としても一人の人間としても考えを深めていきたいと考えています。 |
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野間共喜 のま・ともき Twitter |
1999年11月29日生まれ、兵庫県在住。 2022年4月から舞台音響について勉強し始めました。そのかたわらワークショップや勉強会、パフォーマンスにも参加し、様々な形で舞台製作に関わりたいと思っています。 学生時代はビックバンドにトランペットで参加し、ジャズの演奏をしていました。 休日はスパイシーなカレーを作ったり、教会に通ったりしています。 |
撮影:comura mai![]() |
深澤しほ ふかさわ・しほ Web/Twitter |
1990年生まれ。2015年に映画美学校アクターズコースに入所以降、小劇場の舞台作品に出演を重ねる。 最近は舞台創作のさまざまな創作現場を経て、環境が要請する自身の在り方と、それを受け入れる/抗うことついて考えている。 |
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吉田卓央 よしだ・たかひろ Twitter/Instagram |
吉田卓央(よしだたかひろ)といいます。IT系フリーランサーとして1日12時間くらいパソコンと向きあう生活を2018年までしていました。この生活に少しうんざりしたころ「次のダンス公演に出てみない?」とふんどしダンサー・五十嵐結也に誘われ、初舞台を踏みました。その後はまたビジネスの世界に戻り、パソコンと向きあいました。いいかげん生活にうんざりしてきたころ「平田オリザの演劇学校に応募してみなよ」と友人に進められ、無隣館に入り、演劇の世界に触れました。それから生活の軸をお芝居に移しました。
舞台芸術に関わってから、ビジネス以外の観点を大事にして、物事を評価するようになりました。その仕事をする意味を深く掘り下げず、ただひたすら仕事したので、すり減って、生活にうんざりしていったのだろうと今では思います。 最近は、IT系ビジネスと舞台芸術の両軸での活動をためそうとしています。テクノロジーは昔から好き。ビジネスもそこそこ好きだと気がつきました。ビジネスだけに寄りかかった時期は、視野がせまくなった実感があります。舞台芸術とこれからも関わり続けることで、バランスのとれた判断ができればいいなと思っています。 舞台参加作品:第19回AAF戯曲賞受賞記念公演『ねー』作:小野晃太朗/演出:今井朋彦、隣屋『コロノスのオイディプス』原作:ソポクレス、五十嵐結也『I saw her』『はつみ』『ボーイズ・オン・ザ・ラン』 |