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言葉とシェイクスピアの鳥|長いステートメント

 2018年9月『舞台らしき舞台されど舞台』、2019年3月『言葉だけでは満ちたりぬ舞台』、2019年6月『すべては原子で満満ちている』を上演した。舞台の構造を多元化し、現実の観客と舞台の「距離を取る」ための試みを断続して行なったそれらは「舞台三部作」と名付けられた。
 それから程なくして、人間たちは現実世界でも「距離を取る」ことを已む無くされた。現実の観客と舞台の距離は自然と遠ざかり、反して現実と虚構の距離が着実に近づくこととなった。それは舞台にとって想定内の展開であるべき筈だったが、それらを誤魔化し、然もありなんと舞台に再び上演を配置することを私たちは目指さなかった。
 すると、舞台を物体として配置することを思い立つ。思い立ったそれは、上演と舞台の関係を見直し、観客をも物体として保存することを志す、新しい「物体三部作」の構想となり、その始まりとして、2021年9月『舞台らしきモニュメント』を上演した。

 これは、その第二部として上演しようと考えている新作『言葉とシェイクスピアの鳥』である。

 「集団」「集団の言葉」「言葉の意味の侵入」をコンセプトに据えた『言葉とシェイクスピアの鳥』は、舞台の歴史を象徴する人物の一人であるウィリアム・シェイクスピアの「言葉」が、間接的にアメリカという大国を侵略してしまった──かもしれない──エピソード──或いは都市伝説──を導入に、舞台による舞台の侵略という群像を描こうとする舞台である。

 1890年、ユージン・シーフェリンというアメリカのアマチュア鳥類学者が「シェイクスピアの作品に登場するすべての鳥をアメリカに呼び寄せるプロジェクト」の一環として、イギリスから輸入した60羽のムクドリをニューヨークのセントラルパークに放った。その結果として、ムクドリの普及には成功した──現在のアメリカには、2億羽ものムクドリが生息していると推定されている──ものの、木の上の巣穴を競合する多くの在来鳥が犠牲となった。
 1960年、増えすぎたムクドリはアメリカの航空史上最も致命的なバードストライクを引き起こした。ボストンのローガン空港を離陸したイースタン航空375便のエンジンにムクドリの群れが突撃し、飛行機は港へと墜落。乗員乗客72名中62名が死亡した。さらには農作物、特に果樹へと甚大な被害を与え、アメリカの農業に年間推定10億ドルの損害を与えている。
 そのようにして、アメリカの経済と生態系に多くの影響を与え続けた結果、ムクドリはアメリカの法律では保護されない数少ない鳥類の一種となり、たとえ野生のムクドリを殺傷したとしても、人間が罪に問われることはなくなった。2012年、アメリカの農務省がムクドリを銃殺と捕獲により150万羽近く殺した、という記録も存在している。

 『言葉とシェイクスピアの鳥』には、大きな三つの要素として「関係のない言葉」と「関係のある言葉」と「劇場という構造物に対していくつかの形態を示そうとする空間と身体」が表現される。そこに筋立てた物語は存在しない。それぞれの要素の生態のようなものが、それぞれの環境のようなものにどのようにして適合しようとするのか、そもそもの存在のようなもの自体を選択しようとするのか。敵対と親睦を用いて舞台による舞台の侵略を上演の時間と空間に体現することを目指す。

 観客席を含めた空間は列車のように喩えることができる。最後尾車両として引き続けられるだけの観客席は、やがてあるところで連結を解かれ、推進力を失い、物理法則のままに停止してしまうことによって終演を迎える。この舞台は、観客席に存在する観客へと直接の影響を及ぼさんとすることを徹底的に拒否することになる。保存されていた観客が自己の推進力の存在を再発見するきっかけとなることが、この上演の向かう終着点である。

2023年10月20日(金)小野彩加 中澤陽 スペースノットブランク

参照:BBC “The birds of Shakespeare cause US trouble”

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チケット取扱:公益財団法人武蔵野文化生涯学習事業団 電話:0422-54-2011

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