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髙橋慧丞 Keisuke Takahashi X
 実家の表札の傍には、その家に住む家族の名前が、手書きで、おそらく母親の字でしたが、控えめに書かれた紙が外に見えるように差し込まれていました。私の名前は、5番目、もっとも最後にありました。
 その家は1993年に竣工し、私は1994年に生まれました。1993年にその紙が書かれたのか1994年に書かれたのか、あるいはもう少し経ってから母親のふとした思いつきによって書かれたのか、もっと前、私の兄姉たちが生まれた時に書かれたものに書き継いだものなのかは判然としませんが、私が気づいたのはずっと小さい時で、質問をすれば家族の名前だというそれを見つめ、ひらがなしか読めない自分の未熟さを情けなく思いました。私の名前は「けいすけ」といいました。5番目に書かれていた私の名前は「慧丞」でした。普段よばれる私の名前の響きからその文字は遠く、けいすけ、と言いながらなぞってもそんな風に読めるなんて全然思えなかった。その時の、自分を示す記号に対する違和感を、結局私はまだ拭いきれていないのかもしれません。紙は、時代の流れとともに防犯面を懸念され、いつしか破棄されました。
 出し抜けにそんなことを書いたのは、自己紹介といわれればまず名乗るのが常套だろうと思い、名前にまつわるそんな話が思い出されたからでした。私の名前は高橋慧丞です。唐突に示されても読めないのは私も同じです。

 私は都内在住の会社員です。性別は男性。2021年から2022年にかけて、映画美学校言語表現コース ことばの学校、に学び、第1期生になりました。そこで試みたのは、書き言葉を用いた創作へむけて実際に自らの手を動かしてみることでした。あまりにも個人的なことなので詳述せずに少し強引に言い切ってみますが、その期間を経て、私の手つき、それが私の中で問題視され続けてきました。その模索はもちろん今も続いています。
 つまり私は、創作の方向へ体が向き始めているものの、ただの市井の人です。サラリーで飯を食い、本を読んだり映画をみたり演劇をみたりを自分の自由な時間の中で行っているだけの。演劇の観客になったのは最近のことで、2018年頃から方々へ足を運ぶようになりました。見続けるきっかけとなった劇団は2つあり、そのうちの1つがスペースノットブランクでした。

 今回のチームに参加した理由は、たぶん、ここ数年で私が勝手に行ってきた活動の延長線上に、この場があるような気がしたからです。と、そんな曖昧な感覚を理由としていいものなのか。きっと好ましくないでしょう。こうして参加させていただくことになった以上、私がこのチームに参加することを通して何をどうしたいと思ったのかを、言葉でまとめてみて、私の紹介を終えます。
 声、身体の動き、表情の変化、空間そのもののただなかでそうした話し言葉を用いて集団で芸術作品を創り上げてきた(のであろう)方々に混ざり、互いの言葉の運用を通して、言葉をふたたび何度でも眼差してみること。私は、自らのアップデート、というほど明確な革新ではないにせよ、このチームの一員として過ごす間に、なにか自らに手つきの変化が起こることに期待します。そしてまた、交流していくことになる(のであろう)皆さんが、どのような表現者であるのか、あるいは、今後どのような表現者になっていくのか、1人のとても贅沢な観客として見届けたい気持ちもある。ひとまず1年間はチームとしてのクリエーションはしないということですから、ゆっくり、互いを知っていくことが、それぞれの活動に程度は問わず影響を及ぼし、1年後に行われるのかもしれないクリエーションが徐々に模られていくのだとしたら、私はそれは面白そうだと感じ、書類を応募、スペノのおふたりと面談、スペノのおふたりに参加する機会をいただいた者です。よろしくお願いいたします。

レポート+レビュー
城崎国際アートセンター|髙橋慧丞:あしたのば、あさってのこと──小野彩加 中澤陽 スペースノットブランク『言葉とシェイクスピアの鳥』KIAC滞在レポート④+レビュー

5月13日の広告
「言葉」に引き寄せられて出会い、また新たに「言葉」を紡いでいこうとし続けている「映画美学校 言語表現コース ことばの学校」の同期たちと、東京流通センターで開催される「文学フリマ東京36」において、「ことばの学校 第1期生有志」としてブースを出店いたします。
開催日時 2023年5月21日(日)12:00〜17:00 
私たちのブースの場所は、東京流通センター 第二展示場「あ-27,28」です。

同ブースにおいて様々な冊子を販売いたしますが、ここでは高橋慧丞の参加する2誌のみを簡単にご紹介させて頂きます。

① 合同誌『tele-』vol.2 特集:散歩 
メイン商品となるこちらには、総勢20名の参加作家が、それぞれのアプローチの仕方で「散歩」をテーマにした文章を寄せました。
また、特集企画となる「散歩談会」ではその内の8名が三鷹SCOOLの前に集合し、一緒に散歩に出かけ、それぞれの視点でその体験を綴りました。
盛りだくさんな本誌内容の詳細はTwitter公式アカウントで5月12日(金)から連日公開されていきますのでぜひチェックしてみてください。

② 不浦+高橋+橋場『公共空間における歪曲された三つの文書』
散歩について、異形の眺望を見せる実験的な手紙批評誌。
同期である不浦暖さん、橋場佑太郎さんと高橋慧丞の三者で共作しました。
限定30部。定価500円。
こちらも併せてご検討ください。

ご来訪お待ちしております。

訊ねる
訊ねる:髙橋慧丞
答える:中尾幸志郎

髙橋慧丞:質問①
好きな動物はいますか?
いる場合は、その名称を書かずに、以下のシチュエーションを想像した言葉を書いてみてください。
〈いま、あなたの目の前にあなたにとって「とてもかわいい〇〇」がいます。あなたはその〇〇とふれあいたい。あなたはいくつかの言葉を投げかけることで、ついに、その「とてもかわいい〇〇」とふれあってみて下さい。〉
※〇〇の名称は決して直接的には明かさず(例えばそれが「犬」であれば「犬」とは呼ばずに)、一連の流れを書いてみることで、わたしに分からせてみてください。
※この質問に関してのみ、努めて「〇〇」に対する「話し言葉」であろうとして書いてみてください。
中尾幸志郎:回答①
いやー、困りましたね。高橋さんに「あなたはいくつかの言葉を投げかけることで、ついに、その「とてもかわいい〇〇」とふれあってみて下さい。」なんて言われたんですけど、どうしたもんですかね。僕、今までペットとかも飼ったことなくて、そもそも動物に言葉を投げかけた経験がほとんどないんですよね。犬とかに、「おお元気だねえ」くらいは言ったことあると思うんですけど、それも黙って犬触ってたら周りの人から変な奴だと思われるだろうなあと思って、どちらかというと人間に対して言ってたと思うので。困りましたね。今話してるのも何言ってんだこいつ、って感じですよね。消化にお忙しいところすんません、ほんと。メェ~。

髙橋慧丞:質問②
この文章を読んだ日の前日は晩御飯を食べましたか?
食べた場合は、その献立を教えてください。
※できれば、その中で最もお気に入りとなった一品について140文字以上を費やして書いて、「今日はそれを食べたい」と読んだ人に思わせてもらえると嬉しいです。
中尾幸志郎:回答②
昨日は田端駅から歩いて5分くらいにある、「美味しい餃子」という中華料理屋に行きました。散策者のみんなと集まった帰りでした。「晩酌セット」がえらくお得で、たしか1200円くらいで飲み物2杯と、おつまみ1品、点心1品が頼めました。それをみんなで頼みつつ、しめじの山椒揚げ、麻婆豆腐、色々な種類の餃子などを食べました。特によかったのは、やっぱり餃子。ベーシックな羽根つき餃子に、カニ餃子、しいたけ餃子、いんげん餃子、石鍋麻辣餃子など色々で、皮が厚めなのでもちもちで美味しい。それから、中の肉汁がしいたけやカニの出汁と混ざって、「これはたしかに美味しい餃子ですね~」という味でした。しいて一品あげるなら、石鍋麻辣餃子を食べてください。グツグツの麻辣スープに餃子が浸かっていて、肉汁と辛いスープが最高なので、ビールとごはんがめちゃ進みます!

髙橋慧丞:質問③
散歩をしたことがありますか?
ある場合は、なぜ、あなたがいま思い浮かべた体験を散歩に似たいくつかの言葉ではなく「散歩」と思ったのかを教えてください。所感で構いません。
中尾幸志郎:回答③
散歩はよくします。平日はリモートワークをしているので、その休憩中に家の近くをうろうろしたり、あと休日に用事があって出かけた街でも、写真なんか撮りながらよくうろうろします。「散歩に似たいくつかの言葉」って、例えば何でしょう。「散策」、「ウォーキング」、「徘徊」……? なぜ「散歩」だと思ったのか、と訊かれるとむずかしいですが、いつも「散歩」だと思ってうろうろしているからですかね。たんに「散歩」という言葉が、一番近くにあるのだと思います。

髙橋慧丞:質問④
メガネを持っていますか?
持っている場合は、なぜそのメガネを選んだのかを教えてください。
複数所持している場合は、特にお気に入りのメガネについて教えてください。
中尾幸志郎:回答④
持っていないです。もしかして、僕が自己紹介で視力が落ちたことを書いたからでしょうか(笑)。健康診断では0.4と言われましたが、免許更新の時は問題なかったし、生活上も特に困っていないので、あの日調子が悪かっただけと思うようにしてます。

髙橋慧丞:質問⑤
無機物に話しかけたこと、もしくは話しかけられたことはありますか?
ある場合は、無機物の具体的な名称をあげてその時の状況を教えてください。
中尾幸志郎:回答⑤
真っ先に思いついたのは、ペッパー君みたいなロボットや、あと自動音声。「お金を入れてください」とか、「黄色い線の内側までお下がりください」とかも、話しかけられたの内ですよね。

髙橋慧丞:質問⑥
いままで嘘をついたことがありますか?
ある場合は、最も記憶に色濃い嘘を言える限りで教えてください。また、今後何かしらの嘘をつこうと思い立った人に向けてアドバイスがあれば教えてください。
中尾幸志郎:回答⑥
さすがにあります。でも思い出そうとすると、あまり出てきません。例えば、中学校のとき「向かい風が強くて」と言って遅刻したり、眉毛剃るのだめだったのですが、「起きたらなくなってて」とか言ったりはしてました。もっと実用的な嘘でいうと、「予定がある」とかは回避策として、よく使いますね。アドバイスを言えるほど嘘上手じゃないですが、しいて言うなら「あんまり嘘とかはつかないほうがいいよ」です。

髙橋慧丞:質問⑦
※質問①の解答の結果わたしの用意したシチュエーションに沿って書いてみた、もしくは書いてみようと全文を読んでみた場合にのみこの質問は発生します。
努めて「話し言葉」であろうとした書き言葉について、ご自身の中で何か定義はありましたか?
あった場合は、あなたなりの言葉で、可能な範囲でその定義を教えてください。
また、言葉を話すこと、言葉を話すように書くこと、あるいは話すように書かれた言葉を話すこと、について気がついたことや普段から考えていることがもしあれば、ぜひ、教えてください。
中尾幸志郎:んー、後付けですが「話される場や文脈を想定した言葉」みたいな感じでしょうか。ほんとうは、努めて「話し言葉」であろうとしなくても、実際に動物と話してみれば「話し言葉」は生まれると思います。そして、それを録音して書き起こせば、一番リアルな言葉になったはずです。ただ僕の場合、動物と話すことがないし、話そうとしても恥ずかしくて耐えられないだろうから、その場で困ってしまう自身の体を想定して書いてみました。やってみて考えたことですが、動物と話すときに、人間の言葉で話すことを想定するのって変だなと思いました。相手は人間じゃないのだから、とうぜん人間のじゃない言葉で話さないといけないのだけど、それって何なのか。視線? 呼吸? 間の詰め方? とか、あと声もあるか。それらを言葉と呼ぶとしても、それを他の人間に伝わるように翻訳するのはむずかしそうだなと思いました。(動物とのあいだに生まれる(た)出来事を描写することはできても、それを話し言葉で表現するのはあまり想像がつかないなと感じました。)

答える
訊ねる:加賀田玲
答える:髙橋慧丞

加賀田玲:質問①
今まで一度も使ったことのない言葉、もしくは使ったことがあるが今後は使わない予定の(あるいは使いたくない)言葉はありますか?
ある場合、その言葉を思い出してひとつ、もしくは、それ以上教えてください。
(例:「忖度」という言葉を使ったことがない。/警察時代「ホシ」という言葉をよく使っていたが、退職したので今後使う予定はない。 など)
また、その言葉についての説明や、ほかに何か書くことがあれば書いてください。
※「一度も使ったことのない」の濃度(口には出したことはないが、文章には使ったことがある。/口に出したこともないし文章に使ったこともない。/毎朝心のなかには思い浮かべている。など)は、お任せします。
※「言葉」は辞書的な言葉ではなく、流行り言葉、何かの略称、専門用語など何でも構いません。
髙橋慧丞:俗っぽい言葉で思いつきました「アゲ」ですね。もう古いのかもしれませんが。これは使ったことがないです。気分が高揚した時に使う言葉のようですが、おそらく独り言として使うような言葉ではなく、仲間内で共有していますね、きっと。仮に私がその集団に所属していて「アゲなんだけど」と誰かが言ったのを耳にした瞬間になんだか冷めてしまうような気がします(「サゲ」ですね)。でも状況的には「アゲ」なので「アゲなんだけど」に期待される応答は「アゲ」という言葉あるいは「アゲ」という態度に絞られてしまい、そういった一発で空間を支配してしまうような強度を携えた言葉が苦手で、だから自身も使ったことがありません。
今後は使わない予定の言葉は「シロボウ」「アオボウ」ですかね。前職でよく使っていました。どういう意味なのか、私の前職が何なのかは想像にお任せします。

加賀田玲:質問②
自宅にWi-Fiのルーターはありますか?
ある場合、そのWi-Fiのパスワードを暗記していますか?
髙橋慧丞:あります。
パスワード、あの無作為に割り与えられる複雑な数字。本体の裏面にシールで貼っているだけで、覚えていません。ですが、かつて10代から20代前半ぐらいにかけては、そういう無意味な数字の羅列を覚えることが得意でした。その時はwi-fiのパスワードはもちろん、大学の学生サイトにアクセスするパスワードや、種々雑多なアカウントに紐づけられた無意味な数字の羅列を、たぶんほぼ全て暗記していました。いまこの質問を向けられて、自分の能力の低下を意識させられました。いまや昨日の晩御飯を言い当てることさえ怪しいです。

加賀田玲:質問③
ある一定の期間、継続して行うことができていることはありますか? 
ある場合、それを教えてください。
(例:毎月映画を○本見ること/毎日○km走ること など)
また、ある場合、それを継続するためにどのような心がけが必要でしたか?
※できるだけ、生活のためにしている仕事(あれば)とは結びつかないものだと好ましいです。
髙橋慧丞:少なくとも今年に入ってからは、なにかしらの言葉を書くことは継続できています。毎日必ずではないですけれど、1週間のうち4日以上は書いているのではないでしょうか。といっても、文量は上限だけを定めていて、1日数文字しか書けないこともありますが。
継続するための心がけは、書いている時間以外は書くことをなるべく考えないようにすることです。これは人から聞いた話をそのまま信じて実践してみたところ、かなり重要な心がけだと実感しています。日中、書けない時間に書くことを考えても、書けないですからね。書けないでただ疲労したり、考えている展開のつまらなさに自信がなくなったりしてしまう。 書くために手を動かすことによってのみ、ゆっくりとわかってくることはこんなにあるのだなと日々細々と実感しています。

加賀田玲:質問④
人形やぬいぐるみを持っていますか?もしくは、持っていたことがありますか?
持っている、もしくはいたことがある場合、その人形やぬいぐるみに話しかけることはありますか?/ありましたか?
話しかけはしない/しなかったが人形やぬいぐるみ同士が話すということならある/あった、人形やぬいぐるみは完全に飾るだけだ、など他のことがあれば言える範囲で教えてください。
髙橋慧丞:私は子供のころからペンギンが大好きでして、ぬいぐるみも持っていました。
そして実はいまも、子供のころに持っていたものとは全く別の、細長い棒状のペンギンのぬいぐるみが家にあります。お腹のあたりを握ると「キュー! キュー!」と鳴きます。数年前に、とあるかたにペンギン好きが露見し、頂きました。
子供の頃は話しかけたりもしていたのかもしれませんが、記憶の限りは、話しかけたことはないですね。やさしさが足りないのかもしれません。

加賀田玲:質問⑤
好きな日本の鉄道駅の名前はありますか?
ある場合、その名前を教えてください。
髙橋慧丞:これは、ないです。いま質問を目にして、かなり考えて、「ある」ことにして、適当な駅名をあげて、理由を書こうとも思いましたが、そんなのは嘘になるので、正直に言うと、ないです。
生まれたところが鉄道とそれほどには密接に関係しなくても過ごせた地域ということが大きいのかもしれません。鉄道。つまり加賀田さんは鉄道が好きだということですかね? とついつい質問返しをしたくなりました。

加賀田玲:質問⑥
しりとりを知っていますか?
知っている場合、「ん」で終わるしりとりを自由な長さで作って書いてください。
※しりとりのなかに、質問①で教えてくださった「言葉」を(複数あった場合は一つ以上)含めてください。
髙橋慧丞:知っています。私の知っているルールだと、まっさらな状態からしりとりが行われる時は、しりとりの「り」から始まります。それでは始めます。
しりとり→リズム→虫歯→バスケット→トッポギ→ギプス→スライダー→ダリオ・アルジェント→トーマス→スプートニク→串揚げ→ゲーテ→テクノポップ→プッチモニ→虹→次回予告→櫛→仕上げ→源氏物語→理系→生きもの→ノトーリアス・B.I.G→ジラーチ→チーズおかき→キャラメル→ルビー→ビルボードライブ東京→うずまきナルト→トムソーヤ→やめ時→キース・ヘリング→グッバイ・サマー→Maria→アゲ→劇場体験
終わります。

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