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フィジカル・カタルシス|穂の国とよはし芸術劇場PLATにて。スペースノットブランクのダンス・レジデンス滞在日誌『ほほえみ』2日目

2019年11月26日、火曜日。

朝から少し雨が降っている。

滞在のことだけひたすら書いてあっても読む気持ちが遠のきそうなので、スペースノットブランクのこと、作っている『フィジカル・カタルシス』のことを書きます。目にさらされているわけではないのに、公共の場所でダンスをしていると、どうしてダンスをチョイスしているのかを深く考え、ダンスをチョイスしていない人々に共有する術を身につけなければいけない心延えになり、そのための導入としての滞在日誌になるように書きます。

どこにいても舞台を作っています。今はダンス・レジデンスですが、ダンスだけを作る作家ではありません。小野彩加と二人組の舞台作家です。舞台を作る芸術家ということで間違いありません。舞台芸術の創作をしています。確立してはいませんが、演出つまりディレクションという役割を担って舞台を作っています。ダンスで扱う振付という役割は、ほぼ演出という役割の一部として組み込むと同時に出演者の身体性と動く気兼ねに委ねています。

『フィジカル・カタルシス』は今年から制作をはじめた作品と呼べるかは微妙な心境になる作品です。1月、3月、5月と上演を行ないました。来年8月にも上演を行なう予定です。『フィジカル・カタルシス』は「ダンスのための動きの発出原理」のようなものです。人々は固有の身体を持っていて、振付が同じでも身体=動きの発出地点は固有です。固有の身体から固有の動きを発生させることを『フィジカル・カタルシス』と呼んでいます。固有の身体、固有の動きを自覚して「ダンスとして扱ってみる」ことでダンスになります。一般的に思いつくダンスの技術を駆使したダンスではなく、固有の身体を自覚し最適に活用したダンスです。

『フィジカル・カタルシス』には、音楽、リプレイ、形、ジャンプ、トレースの5つのフェーズがあり、今回のダンス・レジデンスでは第3のフェーズ、形についてをひたすら考えています。「千の形(動き)を作る」ことを滞在の到達地点にしていますが、数字で定義すると失敗と成功を意識しながら制作することになってしまうので、あくまで客体に向けてのスローガンです。固有の身体を自覚し続ければ、事実上無限に制作することができます。

「形」というのは二次元、三次元、目に見えるものの形のことを指しています。個人作業の場合は紙に記号を書いてそれを動きに変換しています。動きから記号に変換する場合もあります。往復を繰り返すことで形に対してどのような動きを持っているのか、動きに対してどのような形を想像するのかを知ることができます。

小野彩加に動きに対して想像した形(記号)です。形=動きを、左から右へ上から下へ並べています。記憶の順序も並びの通りなので、振付は現状一定です。

形を並べると振付が生まれます。十の形(動き)を用意して、4つ並べるだけで一万通りの振付を作ることができます。

3つの形を紹介しました。2日目の今で160の形ができています。

自分以外のすべての他者が持つ固有の身体と、固有の身体が持つ動きを知ることは、普遍的に人と人が知り合うことと似ています。きっとそれもダンスをチョイスしている理由のひとつです。こんにちは、こんにちは、と挨拶し、自己紹介をして、と言葉を用いる知り合い方でも、固有の身体の一部である「表情」を活用しています。その範囲を全身体に拡げてみたらダンスになってしまっただけかも。

これがダンスで、これがダンスではない、と区別する必要もあまり感じていません。知らない人の前でいきなり身体を動かすのは恥ずかしいですが、気になるあの子に話しかけるのも恥ずかしいので、その性質は似たり寄ったり。案外ただ話しかけるより身体を動かしてアピールした方が効果的かも。どうなっても責任は取れないので、ダンスのご利用は計画的に。

中澤陽


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フィジカル・カタルシス|作品概要

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