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光の中のアリス|インタビュー|古賀友樹

Photo by Tatsuya Nakagawa
古賀友樹 Yuki Koga
俳優。1993年9月30日生まれ。俳優として、ゆうめい『みんな』『弟兄』『巛』『あかあか』、シラカン『蜜をそ削ぐ』、劇団スポーツ『すごくうるさい山』『ルースター』『徒』、かまどキッチン『燦燦SUN讃讃讃讃』、スペースノットブランク『緑のカラー』『ネイティブ』『言葉だけでは満ちたりぬ舞台』『すべては原子で満満ちている』『氷と冬』『フィジカル・カタルシス』『ラブ・ダイアローグ・ナウ』『光の中のアリス(作:松原俊太郎)』『救世主の劇場』『ささやかなさ(作:松原俊太郎)』『舞台らしきモニュメント』『クローズド・サークル』『ウエア(原作:池田亮)』『ハワワ(原作:池田亮)』『再生数(作:松原俊太郎)』『本人たち』『セイ(原作:池田亮)』『言葉とシェイクスピアの鳥』などの作品に参加する他、演出補として、穂の国とよはし芸術劇場PLAT 高校生と創る演劇『ミライハ(作:松原俊太郎 / 演出:小野彩加 中澤陽 スペースノットブランク)』に参加している。2020年、びっくり箱リアクション王決定戦 ビリ1グランプリ 第1回王者。2023年、CoRich舞台芸術まつり!2023春 演技賞受賞。
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聞き手:佐々木敦
話し手:古賀友樹
場所:『光の中のアリス』稽古場

Photo by Haruka Takahashi

佐々木敦(以下、佐々木) 面談室みたい。この部屋がその雰囲気を醸し出してしまうっていう感じですけど。

古賀友樹(以下、古賀) 緊張しますねー。

佐々木 緊張することないですよ(笑)。よろしくお願いします。

古賀 お願いします。

小野彩加 中澤陽 スペースノットブランクとの出会い

佐々木 古賀さんは、今回の座組の中でスペースノットブランクに一番古くから出てらっしゃる方だと思うんですよね。まずはやっぱり、スペースノットブランクとはどういう出会いだったんですか?

古賀 え、じゃあ話していいですか?

佐々木 ぜひお願いします。

古賀 え、じゃあもう本当に、本当のエピソードなんで、話しますよ?

佐々木 全然お願いします。

古賀 僕、福岡県出身で、高校卒業するまでは福岡に住んでたんですけど、その時Perfumeが大好きだったんですね。

佐々木 なんか、意外すぎる話の始まりですね。

古賀 当時はちょうど『トライアングル』っていうアルバムが出る前くらいだったと思うんですけど。

佐々木 まだブレイク前ですね。

古賀 そう。『ポリリズム』が出てちょっと経った頃みたいな。それで、当時のTwitter上で、中澤陽の同級生と仲良くなりまして(笑)

佐々木 Perfume繋がりで?

古賀 そう。中澤陽の同級生の方もPerfumeが好きで、Twitter上で仲良くなった。

佐々木 えー。

古賀 詳しい経緯は忘れちゃったんですけど、その方が、当時多摩美術大学の映像演劇学科の1年生だったんですね。僕は高校演劇やってたから演劇良いなって思ってて、進学先を迷ってたんですよ。ちょうどその時、四国学院大学の演劇コースが1期生募集してたからそこに行こうと思ってたんですけど、そしたらその中澤陽の同級生の方が「多摩美においでよ」って。

佐々木 その方は1つ先輩ってことですよね。

古賀 そうそう。で、僕、大学受験の時に中澤陽の家に泊まったんです。

佐々木 そうだったんですか(笑)

古賀 その、だから、スペースノットブランクとの出会い以前にまずPerfumeがあって。

佐々木 友達の友達からだったってことですね。中澤君は大学受験の時に泊めてくれた人ってことですか。

古賀 そう。

佐々木 へぇー!

古賀 そう。大学受験で泊まりに行くついでに、中澤陽とその同級生の方の映像制作の手伝いとかもして。で、なんやかんやあって、僕はAO入試落ちて。3人しか落ちなかったらしいんですけど(笑)

佐々木 逆にすごい。

古賀 その後に一般入試の方を受験して受かりました。その時にはもう既に小野さんと中澤さんは2人で一緒に作品を作ってたから、大学入学後は僕がそこに合流する形で。

佐々木 はいはい。

古賀 というか、受験前に中澤陽が「合格しなくても東京で一緒に作品作ろうよ」って言ってくれて。

佐々木 その軽さ、すごいな。

古賀 もう入学前から中澤陽と5月に作品作ることが決まってたんですね。で無事に合格して上京して、その1週間後にはもう稽古が始まってるみたいな。

佐々木 ははは。

古賀 で、事務所の会議室みたいなところで3人で作品を稽古して作ったっていうのが、出会い。

佐々木 上京してから稽古への流れが早い(笑)

古賀 何するかも分かんないまま合流したら、バリバリダンス作品だった。

佐々木 そうなんだ。

古賀 今では全くやってないんですけど、プロジェクションマッピングとダンスを混ぜて作るみたいなイケイケな、当時的にはイケイケだったんですけど。っていう作品を一緒にやったっていうのが、本当の最初です。

佐々木 すごい出会いですね。古賀さんは高校演劇やってたわけじゃないですか。いわゆるダンスの経験はなかった?

古賀 ないです、未経験でした。

佐々木 すごいですね、やってみたら出来たみたいな感じですか。

古賀 というより、基本やれることしかやらない、当時からそれはそうですね。当時は自分で振りを考えるとかあんまりやってなかったから、2人が僕にぴったりの振りを一緒に考えてくれてたみたいな感じです。ジャンプ系が得意だからそういう振りで。

佐々木 わりと最初からフィットしたというか、周波数が合ったみたいな感じはあったんですか。

古賀 そうですね。別に嫌な感じはせず、ギクシャクすることもなく、すごく平和な時間を過ごしましたね。

始まりから並走して

佐々木 古賀さんが合流した時には、既に小野さんと中澤さんはスペースノットブランクっていう名前だったんですか?

古賀 当時は違う名義だったんですよ。まだ全然、いまの体制じゃない時でした。

佐々木 古賀さんの大学生時代と、2人がスペノになっていく過程は並行してたんですか?

古賀 並行してます。僕が2年生に上がってちょっとしたら、中澤陽は多摩美から居なくなりました。

佐々木 中澤君が多摩美だったってことさえいま初めて聞きましたよ。経歴謎だからね。

古賀 そう。途中から居なくなったので、先輩というよりは一緒に作ってる人みたいな。

佐々木 大学からは居なくなったけど、作品は作り続けてたってことですよね。それがどのタイミングでスペースノットブランクになっていったんですか?

古賀 いまの手法がクッと定まってきたのが、『緑のカラー』とか『ラブ・ダイアローグ・ナウ』。それこそ『ラブ・ダイアローグ・ナウ』は、僕と今井菜江さんの思い出話とほぼ空想で作られてるんですけど。そこで土台がどんどん作られていった感じ。

佐々木 古賀さんはあの手法の誕生の瞬間からやってたんですね。

古賀 やってましたね。これで本当に作れるのかなーって思いながら。

佐々木 思うよね、それは絶対。思うけど、やったら出来ちゃったっていう。

古賀 出来ちゃいましたね。

佐々木 僕は『緑のカラー』とその後のせんがわ劇場演劇コンクールの凱旋公演が本当に衝撃的だったから、わりとその後すぐに三鷹のSCOOLでスペースノットブランクに出てもらったんじゃないですか。

古賀 出ましたね。

佐々木 その頃はまだその手法のプロトタイプ段階みたいな。

古賀 基本的に自分が喋ったことを喋る。パンチラインみたいな台詞があるから、あとで復唱してサビみたいな形で使ったりするんですけど、基本的には自分が喋ったことを全部喋るし、自分から出たものしか喋んないし。

佐々木 それが台詞になるってことですもんね。

古賀 時々人から貰ったものもあるけど。

佐々木 それもあるんだ。

古賀 っていうやり方は本当にその時にギュッとやって作りましたね。

佐々木 古賀さんはスペノの初期の頃からずっと一貫して出演をされていて、もう一方で他の現場の作品にも出るじゃないですか。棲み分けみたいな感じはないんですか?

古賀 僕自身はあんまり差異はないです。

佐々木 そうなんですか。どっちも同じような感じでやる?

古賀 同じですね。これ言うと、なんて横柄なやつなんだって思われるかもしれないですけど、まずは自分がやりたいようにやる。それを調整するっていうのがスペノのやり方でもあるし。どの現場でも、まずは好きなようにやってみてーっていうのがあると思うので。

佐々木 最初にインタビューされない、ってことくらいしか違いはない。

古賀 最近はインタビューも要所でしか使わなくなりましたけどね。でも、そうですね。あんまり変わらないかもしれない。

佐々木 僕は古賀さんのスペノ以外の出演作品も見たことあるんですけど、作品毎にすごい違うんですよね。まず見た目も変えてくる、髪型とか色々。

古賀 髪色とかね。

佐々木 そうそう。それはすごいカメレオン型みたいな感じがしちゃうんですけど、それは毎回自分で「変えよう!」みたいな感じなんですか。

古賀 全然変える気はないですね。人が見て捉え方はバラバラで良い、と僕は思ってるから。基本的に自分で決めたこだわりみたいなものは絶対にやるんですけど、「今回は変えてやろう」とかはあんまり思わないかな。

佐々木 古賀さんはめっちゃスペノに出てるわけじゃないですか。だからこう、スペノに対して変化を求めるというか、そういう意識ってちょっとあるのかなぁって思ったんですけど。

古賀 でもまぁ、2人の今の流れと飽きがあるし、僕の流れと飽きもあるから。

佐々木 そうですよね、そりゃあそうだ。

古賀 たぶん、変わったりしてんのかなぁ。分かんないなぁ。

佐々木 古賀さんはスペースノットブランクの手法の誕生の瞬間にも立ち会ってるから、あんまり特殊な感じはしないのかもしれないですけど、途中から来た人がいきなりあの手法で作ったら「何これ」ってなるじゃないですか。

古賀 なりますよ。僕だって思ってますよ。

佐々木 あ、思ってますか?

古賀 おもろ手法だなって思ってます。

佐々木 あーやっぱそうなんですね。

古賀 そりゃそうですよ(笑)。まぁ多少は麻痺してる部分はあると思うんですけど。

佐々木 麻痺(笑)

古賀 いやでも、当時も画期的だなぁって思った。おもろーって。

佐々木 その手法で面白く出来上がるっていうのがすごいですよね。普通は面白くならないだろってのもあるし。

古賀 そうですね、聞き取りっていう手法もフィジカル・カタルシスっていう手法も、どっちもそれだけで食っていけるじゃんっていうレベルの。

佐々木 発明ですよね。古賀さんはスペノに出続けてもう10年くらい?

古賀 10年は越えてますね、2人との関わりで言ったら。

佐々木 まぁ、共に歩んできた戦友みたいな感じもあるということですよね。

古賀 戦友かなぁ。

戯曲と立ち上げる

佐々木 最初のうちは聞き書き的な手法で作っていたけど、既存の戯曲をやるっていうことにもなっていったわけじゃないですか。松原俊太郎さんは劇作家で戯曲をがっつり書く方だから、『ささやかなさ』が最初にあって、その後が『光の中のアリス』で。これはもう本当に戯曲じゃないですか。

古賀 そうですね。

佐々木 普段と全然作り方が違いますよね。それは当然スペノにとっても挑戦だったと思うんですけど、古賀さんは自分で演じてみて初演の時どうだったんですか。

古賀 でも、僕は『ささやかなさ』が前の段階としてあるので、『光の中のアリス』はすごくやりやすい。『ささやかなさ』を高松のギャラリーで上演した時は、役者が2人なのもあってとんでもない台詞量で、しんどーって思って。当時は滞在先で食あたりを起こして体調も崩しちゃって。ヘトヘトでボロボロでやってたっていうのが記憶としてはあるので。それを経て、『光の中のアリス』は2人じゃないし、4人だし。まあ厳密には小野さんと中澤さん合わせて6人ですけど、なんか楽しいし、楽しげ。

佐々木 戯曲をやる時はいつもと作り方も違うわけじゃないですか。

古賀 あんまり変わんないって思っちゃいますね。逆にめっちゃ無責任なこと言いますけど、分担してくれてありがたいって思います。戯曲があるから、面白さ担保されてるじゃんっていう。普段の聞き取りの手法って、とりとめもない話が殆どなんですよ。「最近、コーヒーに凝ってて、熱いのと、寒いのがあるんですけど⋯⋯」みたいな。

佐々木 スペノっぽい(笑)

古賀 「冷たい」を「寒い」って言い間違ったのもそのまま使っちゃうみたいな。そういう話も、だって、つまんないじゃないですか(笑)。それをなんとか上演で意味のあるものに、まぁ無意味だなって思いながらやるんですけど、面白みのあるもの、見れるものとしてやってはいくけど。

佐々木 仕上げていかなきゃいけないっていう。

古賀 でも戯曲は、台詞に沿って話せば筋が通るからありがたいって思う。

佐々木 戯曲があること自体がもうありがたいってなるという(笑)

古賀 そう。自分から出たテキストは自分から出たただのモノにしか見えない、人から見たら面白みのあるテキストなのかもしれないけど、「いやこれは⋯⋯」っていうのが今までいっぱいあるし。

佐々木 そもそもは自分がダラダラ喋ったことですもんね。

古賀 本当に。だから、やっぱ松原さんのテキストは本当に面白いし。

佐々木 確かに。本当にそうですよね。

古賀 面白いし、立ち上がっていくと、良いなって思うシーンも空間もいっぱいあるので。そういった面で初演時は、何て言えば良いんだろ。ラッキーっていう(笑)。「松原さん、2作目も書いてくれてありがとう!」っていう。

佐々木 そうですよね、その後も書いてますからね。

古賀 そう。だって1作目の『ささやかなさ』は言ってしまえば、僕と西井裕美さんの2人で役者やってて、厳密には小野中澤も舞台上に居たんですけど、これが例えば、「あー、書いて失敗だったわ」って思われたら2作目出来ないじゃないですか。

佐々木 あー、確かにね。まぁ松原君の方もハマったってことだね、スペノに。

古賀 2作目が出来るってことは、多少なりとも引きがあったんだって思って。

佐々木 全然あったんじゃないですか?

古賀 良かったーって。ラッキーって。書いてくれてありがとうーって。

新しい風でふたたび

佐々木 『光の中のアリス』の初演が4年前に京都であった時、僕は「スペノが戯曲やるんだ、しかも松原君の!」って思って見に行ったわけですけども、初演の手応えというのはどういう感じだったんですか。

古賀 やっぱり自分たちでやってる作品はめっちゃ面白いって思ってたんですけど、どう受け容れられるかっていうのは僕はあんまり考えないことにしてるんですよ。受け取りはお客さんがやることだし、僕らはただ出す。面白いと思ったことを面白い状態で出す。で、思ってた以上に好評で良かったって思いました。もっと言い方悪いと、スベると思ってました。

佐々木 あー。「何これ?」みたいな。

古賀 そう、意味分かんないから。

佐々木 聞き取りとは違う方向性の「何これ?」感が、松原戯曲自体にあるということもあるんですけど。でも結局やって良かったなと思ったし、これからもこういう機会があればいいなってなったんですもんね。

古賀 そうですね本当。だから、儲けもんやなーって、良かったーって思いました。

佐々木 今回はそれが再演になるわけじゃないですか。京都でしか上演してないから東京でいつかやるっていう話は前からあったと思うんですけど、いよいよやりますよってなった時にはどう思われましたか?

古賀 まずは、「出来る、やった!」っていう喜びはもちろんありました。『光の中のアリス』は、勝手に周りで幻の作品って言われてるから。

佐々木 見れなかったからね、東京の人は。

古賀 そう。なんか評判良かったらしいじゃん? みたいなことしか。

佐々木 なんで東京でやんないの? みたいなことですよね。

古賀 いやいやそういう企画なんだよって感じなんですけど。で、やれるっていう楽しみはあるんだけど、戯曲は変わらずにいきますってなった時に、もちろん皆で作るものではあるけど、自分は更新しないといけないからちょっとプレッシャーはありますね。

佐々木 あー、初演と全く同じことやるわけにはいかないしってことですよね。

古賀 やるにしても、初演のクオリティよりも高めないとっていうプレッシャーが半々くらいですね。楽しみ半分、プレッシャー半分。『光の中のアリス』っていう題名だけど、もしまた内容がガッと変わってたら、プレッシャーは5分の1くらいになるけど。

佐々木 そっか、なるほど。4年が経って色々構える部分があるってことですね。

古賀 初演を見てくれた人は、どう変わるのかを楽しみにして欲しいとは思いつつも、超えなきゃって思ってますね。

佐々木 いま稽古期間の半分くらいですよね。4年前はこうだったみたいなことと、新たに変えるっていうことが話にありましたけど、どんな感じでいま稽古に臨まれてますか。

古賀 身体が覚えてる部分は少なからずある。声を発した時に、「あ、この言葉、息のとり方気持ちいいな」っていうのをやっぱり思い出すんです。思い出して、やっぱりこう話した方がいいなって思う箇所もあるけど、それで気持ちよくなってていいの? っていう横槍を自分が刺してくるわけですよ。

佐々木 まだ何かやりようがあるんじゃないかみたいな。

古賀 もうちょっとチャレンジした方が良いんじゃないかみたいなのを思いつつも。でもそこは自分で上手いこと折り合いをつけるじゃないですけど、「やっぱりそうか」、「やっぱり違うのかも」っていう調整をしてます。もちろん新しく演出が変わるところは、楽しく新しくやってます。

佐々木 今回メインキャストの半分が入れ替わっているわけですけども、再演といっても大きな違いがあると思うんですよ。やっぱり初めてスペノに出る人は、どれだけキャリアがあっても新鮮さと戸惑いがあったりするものだと思うんですね。古賀さんから見て、皆が現場に馴染んでいく過程って感じたりするんですかね。

古賀 馴染んでいくというよりは、力を貸してもらってるみたいな、新しい風っていう感じ。僕自身はすごく頼りたいと思うし、作品として活かしたい。初演時の矢野昌幸さんと佐々木美奈さんもすごい素敵でしたけど、今回はもう読み合わせの段階で「これは全く違うものになる」って思いました。演出の2人も「とりあえずこれだと思うものを出してもらえれば、それに間違いはないので」って言ってるんですけど、そこで出てくるパワーって確かなものだから、それをありがたくお裾分けしてもらおうって気持ちです。

佐々木 4年ぶりに『光の中のアリス』をやってみて、作品の世界観はどういう風に捉えてますか? 捉え難い作品ではあると思うんですけど、やっぱ不思議な戯曲じゃないですか。

古賀 でもやっぱ、読み直すと気づくというか、深まるところはあって。深まるというか、解釈が変わるみたいな。やっぱりお話をずっと続ける話ではあると思うんですね。思い出す、思い出さないとか、そういうのが作品の中で繰り返し描かれると思うんですけど、僕がそういう捉え方出来るかもなって思ったのが、もしかすると最初のシーンがエピローグなんじゃないかなーとか。

佐々木 ほうほう。

古賀 いや、辻褄合わないとこはあるんですけどね。騎士とヒカリのその後っていうのは作品の中で描かれないですけど、もしかすると最初のシーンを2人のエピローグとして見ることも出来るんじゃないかとか。そういう新しい糸口を見つけて戯曲を楽しもうと思うわけなんですよ、貪欲だから。

佐々木 本当に色んな解釈にひらかれた謎満載な戯曲ですもんね。

古賀 謎満載。自分、騎士(ナイト)っていう役なんですけど。

佐々木 騎士(ナイト)って何なんだよっていう(笑)

古賀 分かんない。全然「こいつ何?」って思っちゃうし、感情とか全く入れ込めない。

佐々木 そうですよね、感情の問題がほぼない戯曲ですもんね。まぁいつもだけど。

古賀 ほぼない。かなり抽象化されてる。

佐々木 でも、エモーショナルに言ったりしなきゃいけない部分もあるじゃないですか。

古賀 語りかける! みたいなとこですよね。それは、相手のパワーを借りつつも相応しいものにしようとは努めてますけど、楽しんでるっていうのはあります。

Photo by Haruka Takahashi

上演に向けて

佐々木 僕が前に稽古場に来たのが数週間前だから、このペースだと次はもう本番なんじゃないかという感じなんだけども、古賀さん自身の意気込みとかありますか?

古賀 めちゃくちゃ楽しめる作品にはなると思います。それだけは確かに言える。でも、楽しめるけど、もしかしたら⋯⋯。あら、マイナスなこと言おうとしてる(笑)

佐々木 ははは。

古賀 楽しめるとこがいっぱいありすぎて、どこを取っていいのか分かんないって人がいるかもしれないな、とは。

佐々木 バーンって。

古賀 そう、バーンって。おもちゃ箱、玉手箱、バーンっていう作品になるとは思う。まぁ最終的に演出の2人が調整してくれると思うんですけど。お客さんに対しては、あんまり気負わずに見に来てくれたら楽しめるよっていうことは言えますし、言いたい。

佐々木 「わかりたい」って思いすぎると、「わからない」という答えが出てきてしまう可能性があるかもしれないので、もっとオープンマインドで見て欲しい作品ではあるよねっていう。

古賀 チケット取って、よし見にいくぞ! っていうのが演劇の常ではあるんですけど、「あ、天気良いなー、演劇やってるー、入ろう」みたいなのが一番たぶん良い。本当はね。

佐々木 三軒茶屋を散歩してて、つい入っちゃうみたいな。

古賀 何だこれ? 『光の中のアリス』やってるなぁ、みたいなのが一番良い。

編集:髙橋遥 土田高太朗

ルポルタージュ:佐々木敦
その1「読み合わせとマーダーミステリー」
その2「戸惑いと疑い」

インタビュー
松原俊太郎
荒木知佳
古賀友樹

Photo by Arata Mino
佐々木敦 Atsushi Sasaki
思考家/批評家/文筆家。音楽レーベルHEADZ主宰。映画美学校言語表現コース「ことばの学校」主任講師。早稲田大学非常勤講師。立教大学兼任講師。芸術文化の複数の領域で執筆、教育、プロデュースなどを行なっている。著書多数。演劇関係の著作として『小さな演劇の大きさについて』。近著として『成熟の喪失 庵野秀明と〝父〟の喪失』『「教授」と呼ばれた男ー坂本龍一とその時代』などがある。
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光の中のアリス

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