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額田大志|『ウエア』インタビュー

東京はるかにの植村です。

スペースノットブランクの新作『ウエア』上演に際し、保存記録を務めますわたくしが、音楽を担当なさる額田大志さんに直接お話しをお伺いし、インタビューとしてまとめさせていただきました。

ご自身が主宰なさるヌトミックについてもお話してくださり、7000字を超えるインタビューとなりました。2019年のヌトミック、そしてこれからのヌトミックについて。ヌトミックにのみ関心のある方にも是非読んでいただきたい内容となっております。

また、ヌトミックの直近の公演についての拙稿を掲載しておきます。
◉東京はるかに|シニカルな没入③ ヌトミック『それからの街』『アワー・ユア・タワーズ』

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額田大志 ぬかた・まさし
作曲家、演出家。1992年東京都出身。8人組バンド〈東京塩麹〉、および演劇カンパニー〈ヌトミック〉を主宰。その他、JR東海『そうだ 京都、行こう。』を始めとする広告音楽や、市原佐都子『バッコスの信女-ホルスタインの雌』(あいちトリエンナーレ2019)などの舞台音楽も数多く手掛ける。第16回AAF戯曲賞大賞、こまばアゴラ演出家コンクール2018最優秀演出家賞を受賞。2019年度アーツコミッション・ヨコハマ クリエイティブ・チルドレン・フェローシップ。

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植村朔也(以下、植村) まず、どういう経緯で『ウエア』という作品に関わることをお決めになったのでしょうか。

額田大志(以下、額田) 特に中澤さんは年齢も一緒だったりとか、業界の中でも近いところで作品を作っていて、僕とも一昨年に作品を一緒に作ったこともあって、中澤さんの主宰しているスペースノットブランクが新作を作るということで、「音楽をお願いします」ということで参加してるような。

植村 なるほど。特にこの『ウエア』っていう作品だからこそ額田さんにお願いしようということはあったんですかね。

額田 今までのスペースノットブランクは基本的に音響の櫻内さんと相談しながら音楽を決めてたみたいなんですけど、「今回は新しいチャレンジをしたい」と小野さん中澤さんから伺い、受けようかなと思いました。

植村 スペースノットブランクとしても新しい試みに出るタイミングだったからこそということですね。池田さんの原作にはどういう印象を持たれましたか?

額田 池田さんは戯曲を書くのがすごい上手くて、読んでいて、自分には書けないものだなっていうのもあるし、スペースノットブランクとしても新しいものになるんじゃないかという感じがして。また池田さん、なんか活き活きと書いてるなと思いました。筆が進んでるんだなみたいな。本当にどうでもよさそうなシーンをちゃんと掘り下げて、でもしっかり繋がってる。うまいなと。あー、うまいなと思いながら読んでましたね。あとスペースノットブランクがやるならこういうテキストだよね、というのもしっくりきました。あんまり変にどうなるだろうって言うよりかは、確かにこれをやるんだろうなって。

植村 その、これをやるんだろうなっていうのは具体的にどういう?

額田 これをおそらくスペースノットブランクがいつもの感じで、っていっていいのかよくわからないんですけど、彼らはスタイルが強くあるなと思っていて。前提とする方法論がほかの作家と違うと思っています。違いすぎて、正直まだわかんないんですけど笑

植村 額田さんとしてはどういうふうに理解されてるんですか?

額田 まだわかんないんですよね、よく。なんとなく面白そうなことをやっているなという感じがしてるんですけど、観に行っても毎回ちょっと分かんないな、とか。どうすればいいのか全然わかんないけど、そういうのをポジティブに考えて参加してみようみたいな。

植村 ここまで稽古をご覧になってどういう印象を持たれましたか?

額田 同じ答えになっちゃいますけど、分からないっていうのが一番大きいですかね、何でこんなことやってるんだろって思う瞬間も結構あって。はたしてどう作品に合致するのかとか、どうしてこれが面白くなるかみたいなことは全然わからなくて。なんでやってるんだろうなって思いながら。

植村 笑。具体的に何をしていましたか?

額田 何か他己紹介みたいなことをやっている印象があって。植村さんが話した話を自分のことのように話す、植村さんが今何か自己紹介をしたら僕が自分は植村さんだと思って話す、みたいなことをやっていました。どうなっていくのか楽しみながら参加しています。興味深く見てるみたいな感じでしょうか。普段の仕事と違って音楽のイメージも、なかなか浮かばなくて。どうしようかなみたいな感じです。

植村 現状も?

額田 あ、現状それは何とかブレイクスルーしたんですけど。小野さんと中澤さんの中に明確に鳴らして欲しい音があったので、一回それにならって作ったあとに、少し自分なりのクオリティを上げていく作業に移っていこうかなと思いました。とりあえず求められたものを作った後に自分らしさを加えていくみたいな感じでやってます。

植村 じゃあ、こういうイメージでっていう提案があったわけですね。

額田 ありました。でも、映像音楽だったり、自分のバンドの曲作ったりとか、色々な仕事がある中で、舞台音楽は一番大変で。理由としては、特に使うシーンが決まっていないこともあったり、漠然とした要求が比較的多かったり、舞台は本番直前に尺もどんどん変わっていくので、そういう難しさがあるんですけど。でも小野さんと中澤さんは、共有も素早いなというか「こういう音で」というのが明確にあったので、そういう風にまず作っていきました。やり取りとして大きかったのは、原作を読んでそのイメージを一回曲にしてくださいみたいなことがあって。なんだろう、ほんと、絵を見て曲を作るみたいなイメージですかね。比較的自由に作っていきました。

植村 自由っていうのは、縛りが緩かったということでしょうか? 原作の作り自体がだいぶ自由じゃないですか。だから、型にはまらない音楽をつくろうっていう意味で自由だったのかとも思うのですが、どちらなのでしょう。

額田 たぶん両方あると思って。スペースノットブランクってコレクティブ的な作り方をしてるなと思って。例えばテキストを俳優自身が決めたりもしているのかなあ。俳優が言ったことをそのまま舞台に使うみたいな。劇作家と演出家みたいな感じじゃなくて、わりとみんなで作っていくみたいなところがあって。多分その流れなのかわからないんですけど、僕もだからあんまり細かいことをどうっていうよりかは、自分で考えて、原作の複雑な構造をモチーフにすることにしました。原作は池田さんらしさがあるなと思っていて、人の弱さ、でも青春みたいな、青くさい感じが。そういうものも、取り入れた形です。あとは登場人物から想起したり。アニメっぽいキャラクターが出てくるので、安直ですけどアニメっぽい曲をちょっと使おうかなとか。そういう原作を読んだときに感じた構造だったりとかキャラクターだったりとか、池田さんの持っているテキストの良さかな、じめじめした感じも含めて曲に変換していくみたいなことをやってました。

植村 今回の場合は原作と上演台本が異なりますよね。稽古場とかで立ち上がっていくものと原作のどちらからイメージをつくるかっていうのが難しい気がするんですが、今回は割と原作ベースで作られたということですかね。

額田 そうですね。何となく進行を見てると、スペースノットブランクは色々な素材を集めていって、最終的になんとか「えい」ってやるタイプかな? 最後二週間ぐらいでなんとかグッて仕上げる感じなのかな? って思ってたので、頼まれてもない曲も作ったりしました。勝手に作って送るみたいなこともして、素材をこう、投げ続けておくみたいな感じです。

植村 チャットアプリの効果音も作っていらっしゃるとのことでしたが、それはどのようなイメージで?

額田 スペースノットブランクのお二人と相談したのは「その場で鳴った時にそう感じられる」ことが大事なのかなと。たとえば雷の音も作るんですけど、別に雷の音を流したい訳じゃなくて、とりあえず大きい音が鳴ったら雷の音だと錯覚するみたいな。結果的にそう作用を起こす音を作って欲しいというオーダーがありました。

植村 じゃあ、メッセージの音も、チャットアプリという文脈がなければそうは聞こえないような音で作られたわけですね。

額田 はい、そうです。

植村 では、ここからは額田さんの主宰するヌトミックについてお話をお聞きしたいと思います。僕はヌトミックの作品を最初に見たのが去年の1月の『ネバーマインド』で、ちょっと遅いんですよね。それ以降はひととおり拝見させていただいたんですけれども、2019年のヌトミックっていうのが、わりあい実験というか挑戦の年だったんじゃないかなということを感じまして。元々はミニマル・ミュージックでの経験を活かして、音楽と演劇の境界をまたぐような仕方で作品が作られていたと思うんですね。でも、そういう実験が『ネバーマインド』辺りでだいぶ尖鋭化したことで、一旦もっと素直に芝居を作る方向に去年、『エネミー』『お気に召すまま』のところで向かわれたんじゃないかと思うんですよ。『エネミー』は驚くほど素直で丁寧な一人芝居でしたし、『お気に召すまま』もシェークスピアに対して相当誠実に向き合って作っていらっしゃるなという気がして。で、それを踏まえて『祝祭の境界をめぐるパフォーム』という風に、きっぱりした名前の集大成的な実験をやって『アワー・ユア・タワーズ』で一通りの完結をみた後で、デビュー作の『それからの街』のリクリエーションや、柳美里さんとの新作へと向かっていくわけです。ここに一つの流れみたいなものを見て取ることはできるなと。

額田 おっしゃる通りだと思います。やっぱり作品を作る回数が比較的多いカンパニーだと思うので、どういう方向性で今年やっていくのかとか、来年以降どうやっていくのかみたいなことを基本考えています。直近のテーマは「演劇を作る」でした。音楽側から演劇業界に入ったので、長い間演劇の作法が分からなかった訳ですね、今もあんまりわからない時もあるんですけど。例えばなんだろう、俳優さんに何かセリフをいってもらう時に、例えば理由なく「あの」って台詞を20回言ってもらうようなことって難しいんです。ミュージシャンはとりあえず音を出すみたいなことができたりするんです。楽譜があったらそれをどう演奏するとか。俳優さんはなかなかそうはいかないというのがあり。俳優の中でも何か整理を付けないと言葉が出ない、パフォーマンスができないみたいなことが、カンパニーの問題として起き始めていたので、一回ちゃんと演劇を、俳優が立てるやり方、つまり演劇的な成立を目指していこうっていうのがこの時期(『エネミー』、『お気に召すまま』)ぐらいから強くありました。時期と言っても三か月とかですけどね。で、それから演劇としての成立をしながらも、何かより少しその先に行けるよう、せっかく音楽をやってきたけど、演劇的になりすぎた気がして、今はその先を今年から来年にかけて探りたいなと思っているところです。カンパニーメンバーも増えて方法論みたいなものが、ものを作る土台みたいなものができていて。土台っていうのは自分がどういう風に話したら伝わるのか、俳優さんがどうやったら立てるのかっていうことがカンパニー内では比較的共有できているので、それをベースにしたカンパニー内の上演の方法論を更新していきたいと思っています。

植村 じゃあ『エネミー』と『お気に召すまま』の2作品を通して、ひとまず俳優があてもなく台詞をいう状態ではなくて、何かしらの整理をつける段階には進めた?

額田 いや、まだまだです。今も考えながら進めてます。恐らくは、理由をつけるみたいなことだと思うんです。例えば「あの」をお客さんに向かっていうことで、お客さんと会話しているみたいな感じにしたいとか、全部違う方向を向いて、色んな人がいると思って言うとか。何でもいいって言ったら怒られますけど、一旦何か舞台に立てる理由を考えて、それをハッタリでもいいのでやっていくみたいなことを続けてきたんです。でも、それがハッタリだと良くないなと思っていて、ハッタリじゃなくても成立するのが演劇としてうまくいっている状態なのかなと。

植村 他の舞台芸術と違い、俳優は演技をすることもあって、なんらかのコンテクストを必要とするから、それがヌトミックが演劇を考える時に重要になってきたと。

額田 そうですね、どう舞台に立つのかとか、何で俳優がやるのかとか。

植村 何で俳優がやるのか、っていうことにはある程度の答えは見つかっていらっしゃるんですか?

額田 ないですね。まだないです。

植村 けれど額田さんはあえて音楽から演劇の方を志向なさったわけですよね。

額田 演劇っていうことにあまりこだわってはいないんですけれど。いつのまにか演劇になっているみたいな危機? を感じてます。

植村 演劇として作ってるつもりがないっていうのは、キャリアの最初の方からですか?

額田 そうですね、でも昨年に一度しっかり演劇を作ろうと。

植村 なるほど、『ネバーマインド』ぐらいからお芝居やるか、ってなって……。

額田 そうですね。でもこれも去年1年の話なのですごい短いですけど。

植村 そうですね。でもその1年の間でも結構ダイナミックな動きが特に目立った劇団だったとは思います。『ネバーマインド』という作品は「これは演劇ではない」という企画の一つとして発表されたわけですけど、そこから演劇を意識しだしたのはなんだか面白く感じます。

額田 でも逆に言えばこれが一番芝居っぽいなと思ってて。なんで芝居なのか、どうやったら芝居になるんだみたいな話を考える訳なんですよ。この時の作業は、基本的には芝居としては受け入れられないものが、どうやったら芝居になるのか、というのを皆で考えて、逆に一番演劇をやっていた気持があります。

植村 柳美里さんが戯曲を書き下ろす『JR常磐線上り列車』(仮)以降、今年、ヌトミックはあまり目立った新作を創るつもりがおありでないとお聞きしたんですが。

額田 今年ですか。はい。いや、やるつもりがないって言うか、時期が合わない、みんなのスケジュールが埋まってるってだけなんですけど。

植村 今後のヌトミックがどういう方向に向かっていくのかっていうビジョンというのはおありですか?

額田 柳さんの戯曲以降、カンパニーとしての舵を大きく切るタイミングかと思っています。現状は俳優さんが所属していますけど、もう少し広くパフォーミングアーツをやる団体として、再始動したい。演劇と名乗ることによる難しさもあるんですよね、当たり前ですけどお客さんも演劇を見るモードになるので。2021年に企画してる上演は、より音楽の分野に足を踏み込んだ作品になると思います。

植村 演劇っていう枠にとらわれないで活動するという時に、やっぱりこう何かしらの界隈というか業界は前提する訳じゃないですか。ぱっと思い付くのはコンテンポラリーダンスとかあるいは音楽とかなんですけど、どういう場所を目指していくかという見取り図はあるんですか?

額田 今あるのは、これまで続けてきた演劇のスタイルの中に、日本であまり知られていない音楽のスタイルを取り入れることができないかと思っています。例えば、メレディス・モンクの発声で俳優が発話したり。これまでのヌトミックは領域横断と評されたりもしてきましたが、そんなに横断できてなかったと思うんですよ、実際のところは。

植村 そうですか? 受け手というか、僕からするとそれは意外です。

額田 でも演劇のお客さんが今はまだ大半だったり、上演も劇場を使用することも多いので。もう少し捉われずに上演を実施できないかと思っています。

植村 じゃあ、内容というよりは受容のされ方が演劇としてのみ捉えられてるから、横断的ではないと。

額田 うーん、そうですね。もう少し演劇のフィールドとの付き合い方を変えていきたいところです。作品は作るけど、それをどんなお客さんの前で上演するかは考えていきたい。

植村 なるほど。やっぱりお芝居を上演なさることは、額田さんは凄い好きなんだろうなっていう感じがやっぱりお話をお聞きしていてあるので、作品を作っている上での手応えみたいなものはあったんですか? 

額田 あでも、一応毎回何かしらはあります。失敗と成功が半々ぐらいで常にあるみたいな状態です。

植村 その成功と失敗の内容を具体的にお聞きしてみたいです。『アワー・ユア・タワーズ』ではどうだったのでしょうか。

額田 成功はフォーマットをちょっと特殊なことをやってみたので、自分たちの目指す劇空間みたいなことに対して強くフォーカスを置いたので、それは自分でも設計はかなりうまくいったなと思って。上演の時の見方みたいな。僕がっていうよりはこれ、舞台監督の河村竜也さん(青年団)や、ヌトミックのメンバーからのアイデアが多いんですけど。何か様々な行動をするとか、こういう風に動いたらうまくいくとか、空間も含めた設計をこう全員できたことが一つの成功としてあるし、フォーマットとしてこれ多分使えるなみたいな。空間を観客が移動する体験として、成功と言えるんじゃないか。反省点は、今思えば、軽くし過ぎたかもと思ったり。その軽さがよかったと思いながら、流石にもう少し強いテキストを使うべきだったかなみたいなことも後で思ったりはしたりします。

植村 客席を固定せずに場所を抽象的に扱うようなフォーマットは、次回の柳さんとの作品にも受け継がれていくんでしょうか。

額田 どこまで可能になるかはちょっと分からないんですけど。似てると思います。

植村 なるほど、楽しみですね。最後に改めて額田さんが『ウエア』に感じているところをお聞きしたいです。

額田 思い入れみたいなことですか? あ、でも分かりやすい思い入れとしては、池田さんも同い年なんですよ。92年生まれで、27歳で、なんかそういうのはいいなと思いました。あとそれぞれどこか共通するところがあって、池田さんは彫刻、小野さんはダンス、中澤さんは映像をやっていたり、それぞれが他のスタイルを経由して演劇にたどり着いたことだと思います。作風も違うので、お互いがお互いの作品をたまに観に行くぐらいの距離感で、コラボレーションは初ですけど、「わかんない」っていうことをしっかりと受け入れながら作るのは風通しがよいなと思ってます。

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植村朔也 うえむら・さくや
大学生。1998年12月22日生まれ。小劇場と市街の接続をスローガンに批評とプレイを実践する〈東京はるかに〉を主宰。広くやさしく舞台芸術を批評し、日本の小劇場シーンの風通しをよくしていく。

◉東京はるかに
◉東京はるかに|批評


◉ウエア|作品概要
◉植村朔也|『ウエア』イントロダクション
◉荒木知佳と櫻井麻樹|『ウエア』出演者インタビュー
◉瀧腰教寛と深澤しほ|『ウエア』出演者インタビュー
◉池田亮|『ウエア』インタビュー
◉小野彩加と中澤陽|『ウエア』メッセージ

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