続・継承する身体|康本雅子:講義+ワークショップ「オープン毛穴、ゴーゴー迷子」レポート|山口なぎさ:蛇口に水を通すように
| 山口なぎさ(ダンスアーティスト・ダンサー) |
| 撮影:No.44 |
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| 1997年、宮城県生まれ神奈川育ち。 桜美林大学芸術文化学群卒業。在学時は木佐貫邦子に師事。 断片的な記憶や景色、目には見えない柔らかな感覚を身体を通して掬い上げ、ダンス作品やパフォーマンスへと落とし込む。 生活の中で生まれる繊細な「記憶」をパフォーマンス作品として「記録」するプロジェクト『六畳半』を主宰。日常に潜む小さな変化や感覚を見つめながら創作活動をスローペースで行っている。 自主制作、発表を行う一方、ダンサーとしても舞台に立ち、他者の作品における身体表現にも携わる。近年は伊藤千枝子のもと、踊る身体の本質的なあり方について研究と実践を重ねている。 また、自身の身体表現の経験を活かし、療育施設にて子どもたちへのダンスや表現活動の指導にも取り組んでいる。 |
今回で5人目の招聘アーティストとなるダンサー・振付家の康本雅子さんを迎えた。これまでのワークショップよりも1時間早く、参加者がスタジオに集まる。
今回のタイトルは、「オープン毛穴、ゴーゴー迷子」。
私は家を出る前にこのタイトルを目にし、「肌の毛穴の通りがスムーズなほうがよいのでは?」と察し、いつも使っていたファンデーションをやめてみた。何気なくしたこの選択が、後のワークショップでの身体感覚にもつながっていくことになる。
これまでと同じように、前半は講義から始まった。
椅子に座りながら、ストレッチをしながらと、それぞれのスタイルで聴講していた。
ただ、これまでのようにパワーポイントの資料を見る形式ではなく、康本さんのiCloudにある箇条書きのメモがそのまま画面に映し出されていた。講義中、私は画面の資料以上に、ほとんど康本さんの表情を見ていたように思う。
講義の内容は以下のように進んで行った。
・ダンサー、振付家になるまでのプロセス
・“ダンスで生きていこう”と決心したこと
・子育てと移住について
・東京に戻ってきた時のこと
・「質感」が身体の中に入るということ

康本さんが振付家になるまでのバックパッカー時代のエピソードなど、クローズドでライブ感のある講義は、まるで直進するハイスピードのバイクに乗っているようだった。
場所を移動し、人と出会い、その土地に入り込んでいく。康本さんのこれまでの道のりには、120%のフットワークの軽さと、迷うより先に身体が動いていくような勢いがあった。その行動力そのものが、康本さんの活動を形づくっているように感じられた。
講義の中で出てきた、
「直球ボール、草の根活動だからね!!」
「新たな視点なんていらない!!」
という言葉が印象に残り、私はそのままノートに書き留めた。
新しい視点を探しに行くのではなく、自分の目の前にあるものにまずまっすぐ向き合い、動いてみる。康本さんのこれまでの活動を聞いた後だったからこそ、その言葉には強い説得力があった。その言葉が、自分の中にもガツンと入ってきた。
福岡や京都など、東京以外の地域での生活についての話も印象に残った。
近年、ダンサーや振付家が地域おこし協力隊や町おこしなどをきっかけに地方へ移り住み、その土地でダンスや芸術活動を行うケースを耳にすることが増えている。康本さんも、東京だけを活動の拠点とするのではなく、福岡や京都など異なる土地で生活しながら活動してきた。
その中でも、「東京ではダンスに必死で、生活を楽しめていなかった」という言葉が強く残った。
ダンスを続けるための環境として東京を見るのではなく、ひとつの土地で生活することそのものと、ダンスをすることをどう共存させるのか。康本さんの経験からは、活動する場所を変えることで、ダンスとの向き合い方だけでなく、日々の暮らし方そのものも変化していくことが感じられた。
「生活」と「ダンス」を別々のものとして考えるのではなく、その土地で誰と暮らし、何を食べ、どのような時間を過ごすのか。そのすべてが身体や創作につながっていく。
隣の人とご飯を分け合うような生活がしたい。
☆

数日前に事前共有として康本さんは「いかに他力本願で動くかが、近年の自分の関心ごとです。」と受講者に伝えていた。
小休憩をはさみ、椅子を片付けて、いよいよワークショップが始まる。
ワークは、他者との接触や皮膚感覚を手がかりに、自分の意思だけで身体を動かすのではなく、「他者」や「物」「音」など、自分以外のものに身体を委ねていくことを扱う。
以下は、実際に行ったワークを、私自身が受け取った内容をもとに名付けたものである。
・背中合わせになる・触れる
二人組になり、まずは背中合わせになって互いの身体に触れる。
・背中揺らし
康本さんが毎日行っているという、背中を揺らすワークを体験する。
・パーソナルスペースに入り込む
相手のパーソナルスペースに、皮膚感覚を意識しながら入り込んでいく。
・対人の目を1分間見つめる
対象者と視点、焦点が合うところを高低差や距離を変化させながら探る。
・相手に動く場所を委ねる
長袖の肘関節あたりをつまみ、相手の身体を動かす。自分で動こうとするのではなく、どこへ動くのかを相手に委ねる。
・エネルギーを受けて動く
3人組になり、中心にいる人がエネルギーを発する。そのエネルギーを受ける2人は、自分の意思だけで動くのではなく、中心から受け取ったエネルギーによって身体を動かしていく。
・ミニおやつワーク
おやつを介して、親密な心身と繊細な意識、感覚を共有する。
・粘土の感覚を身体に入れる
粘土に触れるような感覚を想像し、その質感を身体の中へ取り込んでいく。
・音に委ねて動く
これまでのワークで経験してきた身体感覚を踏まえ、最後は音という「他力」に身体を委ねながら動く。
こうして箇条書きに並べるとかなり盛りだくさんな時間であったことが回想される。

ワークショップでは、他者との関係性や距離、視線、エネルギーなどを手がかりに、身体の動きがどのように変化するのかを体験していった。
他者との距離や視線を扱うワークでは、「ソーシャルディスタンス」という言葉が想起された。同じ空間にいても、他者との関係性によって適切な距離は異なり、視線に対するセーフティゾーンも一人ひとり異なる。身体は個人だけで完結するものではなく、他者との関係性の中で変化していくことが示された。
また、身長による視線の違いについての話もあった。背の高い人は、日常的に人を見下ろすような視線になりやすく、そのことで視界が閉鎖的になる。一方、上を見ることで視界を広く捉えることができるという。普段何気なく使っている視線も、身体の認識や空間の捉え方に影響していることが分かる。
続いて、他者のエネルギーや波を受け、その力に委ねて動くワークを行った。自分の脳からの指令によって動き始めるのではなく、他者から受け取ったエネルギーをきっかけに身体を動かすことで、動きの始まりを明確に捉えることができた。
他者から受け取るエネルギーが強すぎる場合には、身体がその力に翻弄される。一方で、繊細なエネルギーを受け取ることで、身体がその刺激に反応し、自然に方向を変えていく場面もあった。ここでは、動きを自分の意思によって一から生み出すのではなく、外部から受け取ったものを身体を通して動きへと変換していくことが試みられていた。
その中で、康本さんが話した「蛇口に水を通すような」という言葉が印象に残った。他力によって生まれたエネルギーを受け取り、それを身体に通して動きとして外へ流していく。水源があって水が循環するように、動きを止めずに継続していくための身体のあり方とも捉えられる。言葉と身体が接続される。

後半には、紙粘土を使ったワークが行われた。紙粘土を触り、その質感を自分の身体の中に入れていくというものである。ここでは、紙粘土という「物」を介して、皮膚から質感を身体の内部へ浸透させていくような感覚が扱われた。紙粘土の感触が皮膚を通り、身体の内側に入り込んでいくようなイメージを持つことで、外部にある物質と身体との境界を意識するワークとなっていた。
紙粘土の感覚が皮膚を通り、身体の中の血液と交わり、少しねっとりと身体の中へとへばり付いていくような感覚。あまりにもその感覚を入れこみすぎると身体か痒くなっていくようにも感じた。これまでのワークで扱ってきた“他者”や“エネルギー”のように“モノ”の質感が身体感覚そのものを変化させていた。
最後には、それまでのワークで扱ってきた身体感覚を踏まえ、音という「他力」に委ねながら動いた。ここまでに行ってきた、他者からエネルギーを受け取ることや、物の質感を身体に取り込むことなどが、音を介した動きへとつながっていった。
一連のワークを通して扱われていたのは、自分の意思だけを起点とせず、他者や物、音など、自分の外側にあるものを受け取りながら身体を動かすということであった。特に「他力本願で動く」というテーマは、単に他者に身体を動かしてもらうことではなく、外から受け取った刺激を身体の中に通し、自分自身の動きへと変化させていくプロセスとして捉えることができる。
今回のワークショップのタイトルである「オープン毛穴、ゴーゴー迷子」は、皮膚や身体の外側と内側の境界を意識する一連のワークとも重なっていた。私は朝、タイトルを見て、いつも使っていたファンデーションをやめて家を出た。ファンデーションによって毛穴を覆うという日常的な行為から離れた状態で、皮膚を通して他者や物、音などの外部のものを受け取るワークを体験したことも、今回のテーマを考える一つのきっかけとなった。

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