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私が体験したスペースノットブランク『ストリート』にまつわる全て:中間アヤカ

2022年9月末、スペースノットブランクという団体の主宰である中澤さんより1通のメールが届いた。内容は、10月に大阪で『ストリート』という題名のパフォーマンスをやるので、それを見て批評文を書いてほしいという依頼だった。批評家ではなくダンサーである私は、これまで彼らの作品は京都で上演された『バランス』しか見たことがない。依頼を受けるかどうか悩んだが、そんな私にこの話をいきなり投げてきたスペースノットブランクという団体の訳の分からなさに惹かれ、引き受けてみることにした。私は訳の分からないものが好きだし、押しに弱い。

10月2日、日曜日。ロームシアター京都で上演された『再生数』を観に行き、この仕事を引き受けたことを少しだけ後悔した。書ける自信がない。

10月8日、土曜日。『ストリート』は大阪市内で合計5日間、毎日場所を変えて上演されており、この日はその4日目だった。前日に集合場所と上演スケジュールの連絡がメールで届いたのに続いて、上演2時間前に集合場所の詳しい目印が送られてきた。北加賀屋公園の隣にある彫刻作品。あの辺にそんなんあったっけと思いながら、電車に乗った。JRさくら夙川駅に着いた頃、人身事故のアナウンス。しばらく待ってみたが全く動く気配がないので電車を降りた。よりによってなんでこんなところで…と思いながら、関西在住10年目にして初めて夙川の地に降り立つ。道に迷いながら15分くらいかけて歩き、阪急夙川駅から電車に乗った。西梅田で地下鉄に乗り換えるミッションもまだ残っているし、上演前に煩わせてしまって申し訳ないが到着がギリギリになる旨連絡をして、北加賀屋駅の構内図を検索し頭に叩き込んだ。梅田方面から北加賀屋公園に向かう場合は、四つ橋線の前側の車両に乗り北加賀屋駅の西改札を通って4番出口を出るのが一番の近道です。

走って公園前に着くと、中澤さんと出演者の皆さんがにこやかに出迎えてくださった。スペースノットブランクのもう一人の主宰で、『ストリート』の出演者でもある小野ちゃんとは、2015年に黒沢美香の作品で一緒に舞台に立ったことがある。その頃一時的に横浜に住んでいた私は、小野ちゃんにアルバイトを紹介してもらったこともある(それは今思い返してみれば建物の中に設えられた「ストリート」的な場所で通行人に声をかけたりパンフレットを配ったりする仕事だった)。それ以来連絡を取っていなかったので久しぶりに会えて本当に嬉しかったし、顔を見た瞬間に色々と話したい気持ちが溢れてきたが、グッと堪えて上演が始まるのを待った。

『ストリート』を踊ったのは3名のダンサー。オレンジ、ネイビー、カーキ、3人それぞれ違う色のツナギを着ている。まず自己紹介から始まり、そのやわらかな雰囲気に導かれるままなんとなく3人の後を追う。この辺りは前日雨が降ったのか、公園内の土は少し湿っていた。オレンジ色の缶がドロドロの土に逆さまに刺さっている。いつの間にか3人は横一列に並び、勢いをつけて一斉に踊り始めた。先ほど受け取った柔らかな挨拶や、様々な人が集う公園というひらけた場所に接続するには少しばかり違和感のある硬さのある動きだ。彼らはお互い干渉することもなく、真っ直ぐ前に進んでいく。速さではなく、動く身体の形の面白さを競う徒競走のように。ちょうど50mほど進んだ後、砂の上からコンクリート造の一段高い場所へ。再び一列に並び、前へ前へと進む彼らの姿はまるでファッションショーのランウェイを闊歩しているかのように見えた。ここまでの3人の有り様は、生活の中で目にすることのできる既存の設定に置かれた人々の姿を想起させるが、その設定は奇妙な身体の動き、つまりダンスによって時空を越える。未来の徒競走や、未来のランウェイとはこんな感じなんじゃなかろうかと想像させられる。

「未来っぽさ」はどこからやって来るのか。これまで常に3人で一緒に動いていたダンサーたちは、やがてそれぞれの進行方向を選び、分かれ道を行く。観客も3人のうち誰に着いていくかを選択することになる。1人になったダンサーの動きを見ていると、それがどのような動きであるかがこれまでよりはっきりと見えるようになるが、はっきり見えるようになったからと言ってはっきり言葉にできるようになるのとは違う。ものすごく雑な分類の仕方が許されるのであれば、「ポストモダンっぽい」と思った。感情が見えてこない、留まらない、全ての動きを等価に扱うような身体の運び方とリズムにそれを感じたのかもしれない。いつかどこかで見たことあるような、しかしそれそのものではない、何か既存のものに当てはめてその輪郭を見比べることでしか形容できない未知との遭遇(という体験)に「未来っぽさ」は存在するのかもしれない。

オレンジ色の強靭な下半身。尻を追いかける観客。

公園に隣接する野球場には、ボールを投げたり、走ったりしている人たちがいた。私たちはフェンス越しのその光景を身体の右側に携えながら、野球場と公園の間の細い道を進んだ。自転車に乗ったお父さんと子どもが通り過ぎていった。この一本道を通るには決して立ち止まらず、振り返ることなく前へ進んでいかねばならないルールがあるようだ。と思った瞬間、ダンサーが立ち止まった。視線の先には先ほど分かれ道で別れたダンサーと観客たち。待ち合わせが起こり、全員揃ってから、息を整えまた一斉に進み始める。再開(再会)を知らせるかのように、鳩が飛び立った。

公園を出た外側、ストリートには刺激が多い。雑草、野良猫、路駐、壁画、建築。せっかくなのでそれらひとつひとつを眺めたり写真を撮ったりしながら歩きたくなるが、のんびりとした散歩のリズムで進んでいてはダンサーたちに置いて行かれてしまうので叶わない。しかし、こんなに刺激の多いストリートに連れ出しておきながら、さっきからあまり変わらない(ように見える)テンションのパフォーマンスそれだけに興味を持ち続けろと言うのか? ダンス(を見せようとする身体)の傲慢さには全く飽き飽きしますわ、と自分の思考が嫌味なムーブを起こし始めた頃、ふと気付いたことがあった。この場所で披露するように振り付けられたダンサーのムーブメントはこの場所のために作られたものではないのではないか。
どこか別の場所で作られたムーブメントが、北加賀屋公園とその周辺のストリートにインストールされる。北加賀屋公園とその周辺のストリートを観客と共に進んでいくという振付によって。そうして初めて、そのムーブメントはたちまちその場に「似合わない」、「異質な」ものへと変貌を遂げることができるのだ。当たり前の話だが人が動くためには空間が必要で、ムーブメントはその発生の瞬間に身体が置かれていた空間に対応(呼応)した素材としてダンスに固定される。ムーブメントが発生したその場所で上演を迎えることと、その場所から取り外し持ち運んで別の場所へインストールされることには大きな違いがある、ということはそれを踊る当事者でなくても想像が容易いだろう。

夜行バスの駐車場を横目に、動きの発生源を想像するしばしの時間。この運行会社は各バス停の周辺にラウンジを兼ね備えていて、バスの利用者は乗車前と乗車後に無料で使用することができる。私がいつも三宮から乗るバスは、こんなところからやってきていたのか。

工場や倉庫が立ち並ぶ一本道。野球場で会ったお父さんと子どもがまた通り過ぎていった。手を繋いだカップルにも追い越された。彼らはツナギ姿で踊るダンサーや、その動きにゾロゾロとついていく私たち観客には目もくれずに進んでいった。スペースノットブランクの『ストリート』を見に来た訳ではない人たちにとってのストリートは、私たちにとってのそれとは全く違うように見えているのかもしれないし、あるいは道端で人が踊っている程度のことなど案外気にならないのかもしれない。

そろそろ歩き疲れてきたなと感じた頃、人の顔が描かれた岩が道路脇に並べられているのを見つけた。その隣には岩についての説明が描かれた板も置かれていたので、これはノガミカツキというアーティストの『Image Cemetery』という作品なのだと知る。これが作品であるということを知らせる方法が分かりやすくていいなと思った。いつもだったら分かりやすいものには惹かれないはずなのに。そんなことを考えていたら、中澤さんの声掛けによって、『ストリート』の上演が終わったことを知らされた。ここまでずっと進み続けてきたダンサーの身体が最後にどのような形で停止させられたのか、その瞬間を私は見ることができなかった。そうして突然ここから先の行き先は自分ひとりで決めなくてはならなくなったので、駅前のインドカレー屋に向かったが店は閉まっていた。

中間アヤカ Web
1992年別府生まれ、神戸在住。ダンサー。英国ランベール・スクールを卒業後、文化庁・NPO法人DANCE BOX主催「国内ダンス留学@神戸」1期に奨学生として参加。近年では黒沢美香、木村玲奈、contact Gonzo、チェルフィッチュ等の作品に出演する傍ら、自身の作品制作も行う。2019年にArtTheater dB Kobeにて初演した中間アヤカ&コレオグラフィ『フリーウェイ・ダンス』は、TPAM国際舞台芸術ミーティングin横浜、KYOTO EXPERIMENT、クンステン・フェスティバル・デザール、ベルリン芸術祭、ポンピドゥ・センター等で再演を重ねる。誰かや何かに振り付けられる身体にこだわりを持ち、ダンスとしか呼ぶことのできない現象を追い求めている。2018-2020年度DANCE BOXアソシエイト・アーティスト。2022年度よりセゾン文化財団セゾン・フェローⅠ。第16回(令和4年度)神戸長田文化奨励賞受賞。

ストリート

レビュー
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